バブル期以前に日本経済は「世界のお手本」とまで言われ、1980年代には世界最強を誇りました。そんな日本経済が、なぜ国際競争力を失い、追い込まれてしまったのでしょうか。
停滞は1980年代から
経産省(当時:通産省)元次官の福川伸次氏は日本の停滞は1980年代から始まったと考えています。日本の社会全体に“おごり”があったといいます。
拝金主義がはびこった
エズラ・ボーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が出たのが1979年。
1985年のプラザ合意で急速な円高に向かい、経済が苦境に陥った時に徹底的に構造改革をしようという意識が産業界に芽生えました。
しかし、その後に景気対策の大合唱が出て、バブル経済に続く政策的な失敗がありました。社会に拝金主義、利益優先主義がはびこってしまったのです。
「前川リポート」の後が続かず
政治も同じ。1955年体制の崩壊を頂点にして、自民党が政策より権力にしがみつくようになってしまいました。
また行政も、本当なら1980年代半ばに構造改革をする必要がありました。『前川リポート』は1986年のことです。
それなのに規制緩和を先送りし、米国からの外圧に合わせるだけで本質を変えようとしませんでした。ヤングリポートやレーガン改革など、きちんと戦略を立てた米国とは大きく違います。
日本の潜在力が高い理由
とはいえ、日本経済の潜在力は高いと思います。
第1に、日本人は複数の知識を融合して、その中から新しい知識を生み出す能力があります。それは戦後の復興期だけでなく、奈良・平安時代、安土桃山時代、明治時代などすべてそうです。
武士道や商人道
第2に、日本は自己規律や自己研鑽という美徳があります。つまり真面目に生活し、仕事をすることです。武士道、商人道などの「道」の文化です。華道や茶道も同じことが言えます。
第3に、人と人との関係を大切にする。自分の属する社会や集団を大事にする。これは社会の安定に寄与します。
第4に、自然との共生です。
AI時代に最適
これらはAI時代に非常にふさわしい能力といえるでしょう。新たな知識を生み出し、自己の生活を向上させ、また人と人とのコミュニケーションを活発にすることは、AIの最も得意とするところです。
日本の優れた美徳は、1980年代のバブル時代から覆い隠されてしまいました。社会システムの改革とともに、日本の昔ながらの美徳を取り戻すことが必要なのです。
酒井剛志